
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)とは、一般の腸の検査(大腸造影検査、内視鏡、便検査など)をしてみても、炎症や潰瘍、内分泌異常などが認められないにも関わらず、慢性的に腹部の膨満感や腹痛を起こしたり、下痢や便秘などの便通異常を来たしたりする疾患です。腸の内臓神経が何らかの原因で過敏になることによって、引き起こされると考えられており、20~40歳代によくみられます。
IBSのはっきりとした原因はわかっていませんが、いくつかの要因が病態に関与すると推測されています。
何らかのストレスによって腸の動きを司る自律神経のバランスが乱れて収縮運動が過剰になったり、痙攣状態になったりし、同時に痛みが感じやすくなる知覚過敏状態にもなります。
感染性腸炎にかかった場合、回復後にIBSを発症しやすいことが明らかになっています。感染によって腸に炎症が起き、腸の粘膜が弱くなるだけではなく、腸にいる腸内細菌にも変化が加わり、収縮運動と知覚機能が過敏になるためです。
下痢型(IBS-D)
主な症状は突然起こる腹痛と下痢で、お腹の張りや残便感など不快な違和感を生じることもあります。急な便意が心配で、通勤や通学、外出などが困難になる方もいます。
混合型(IBS-M)
下痢をしたと思ったら便秘が起こるなど、下痢と便秘を交互に繰り返すタイプです。
便秘型(IBS-C)
主な症状は繰り返す便秘と便秘による膨満感や不快感です。強くいきまないと便が出なかったり、ウサギの糞のようなコロコロとした小さな便しか出なかったりで、排便が困難になります。一般的な便秘はご高齢の方に多く、IBSの便秘型は若い年代の方に多くみられます。
IBSは症状だけで診断することはできません。
大腸がんなどの悪性腫瘍や炎症性腸疾患などの病変がないことが前提となります。これらの器質的疾患が隠れていないかを調べるために、血液検査、尿検査・便検査を行ったり、さらには大腸内視鏡検査やCT検査も必要に応じて実施します。
こうした検査で様々な疾患を除外したうえで、下記のRome基準に合致していることが確認できればIBSと診断されます。
過去3カ月以内に、1カ月あたり3日以上、腹痛やお腹の不快感が繰り返して起こっていることに加えて、以下の(1)~(3)のうち2項目以上の特徴を有するもの。
IBSの治療は、生活・食事の改善、薬物療法、心理療法の3つが基本になります。
生活習慣のなかで、不規則な生活、疲労の蓄積、睡眠不足、心理社会的ストレスなど、この病気の増悪因子と考えられるものがあれば修正を試みます。また、暴飲暴食や深夜の食事、脂肪分の多い食事を避けて3食規則的な食事を心がけましょう。症状を悪化させる食品(大量のアルコール、香辛料などの刺激物、コーヒーなど)の摂取を控えるようにし、ヨーグルトなどの発酵食品は、症状の軽減や予防に役立つ効果が期待でき、食物繊維は、便秘、下痢どちらのタイプにも有効なので、これらを積極的に摂るようにします。ストレスをためないようにしっかり睡眠を取ったり、適度な運動や趣味などでリフレッシュしたりすることも有効です。
ビフィズス菌・乳酸菌などで、腸内環境を整えます。
セロトニン受容体(5-HT3受容体)拮抗薬は、腸の動きを活発化したり、腸での水分吸収の異常の改善することで、下痢を改善させます。さらに腹痛や腹部不快感など内臓知覚過敏を改善する効果もあります。
水分を吸収しゲル化することで、腸での水分吸収を抑えて、便は適度の水分を含み便の容積も増すようになります。下痢型にも便秘型にも効果があります。
下痢型に対して、一般的な下痢に使用される止痢薬を用いたり、腹痛に対して抗コリン薬を用いることがあります。
便秘型に対しては、便を柔らかくする浸透圧性下剤や粘膜上皮機能変容薬、補助的に下剤が使用されることもあります。
腹痛や下痢傾向を改善する桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、便秘に対しては桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)が広く用いられています。
薬物療法を実施してもIBSの症状が軽快しにくい場合、カウセリングや心理療法が有効なことがあります。また、一般的な治療薬で改善が乏しい場合は抗不安薬や抗うつ薬を使ったアプローチが必要となることがあります。
この場合は適切な医療機関へご紹介させていただきます。
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